題材例(応援団支部
1,研究主題
生徒の生きる力を育む選択授業のあり方
(ゆかた・じんべいづくりを通して)
 
2,主題設定の理由
(1)社会的背景
 社会の変化が著しい中で,我が国の経済は急激な発展をした。経済の進展は,家庭生活を豊かにし,日常生活の「衣・食・住」に大きな影響を与えている。食材や衣服などを見ても使いやすいだけでなく,質のよい物,個性的な物などが求められるようになってきている。
 そのような中で,日本の伝統工芸でもある和服に触れ,ゆかたを製作することにより,日本の伝統文化を理解しより豊かな暮らしができると思われる。民族衣装にはその国の人の誇りがある。伝統を大切にして自分の国に対して誇りをもつことが大切なことである。また,他国の伝統衣装の歴史や特徴を調べ,自国を知って他国に学ぶ国際理解にもつながると考えた。近年アジアへの渡航客数も増加傾向にあり,テレビなどから情報を得る機会も多い。そこで,韓国のチマ・チョゴリやインドのサリーを通して各国の宗教観や気候,風土から民族衣装の意義についても視野を広げさせたい。
 じんべいは,戦国時代の防護服である「陣羽織」に由来している。これは戦場の武士が胴着の上などに着用したそでなしの羽織で,指揮官の陣羽織は革や厚い布で製作した。でも,実際に戦う武士は機動性を重視し,軽い木綿などの布で作ったものを着用した。これを兵士が着る羽織ということで「陣兵羽織」と呼んだ。これが動きやすく簡単に作れることから江戸時代には一般庶民にも普及した。麻や木綿で作ったものを陣兵羽織をもじって「甚平羽織」と呼び,町人がホームウェアとして着用するようになった。現代でも,手軽に着られることから着用する人が多い。しかも,男女関係なく着られることから着用率が高まっている。
 ゆかたは湯帷子(ゆかたびら)の語が転じたもので,平安時代に貴族が入浴(蒸し風呂)の時に着ていたものがそもそもの始まりといわれている。一般の人々がゆかたを着るようになったのは,室町時代の終わりから江戸初期にかけてであり,特に盆踊りが盛んに行われるようになってからである。近年では,和服を自分で着ることができない人が増えているなか,ゆかただけは簡単に着られ,安価で古典柄の枠を越えたデザインの豊富な既製品が販売され,簡易帯の普及によりゆかたが見直され着用する人も多くなっている。また,ゆかたを着ていくと割引や特典がつくテーマパークもあるということが若者のゆかた着用率を上げる一つの要因と考えられる。
 そこで,生徒に作ることの喜びや楽しさ,作品を生活に生かしていく楽しみ等を味あわせたい。ゆかたを作ることで,基礎的な縫製技術を習得させ,衣服の構成と身体の関係を理解させたい。また,我が国の文化に関心をもたせ,家族,特に祖父母とのの交流を深めるきっかけにもつながる和服の平面構成の基礎を学ばせたい。昨年度から授業時数が削減され,選択授業のあり方に着目し,この製作を通して,着用目的と被服との関係,被服構成の基本,被服材料の特徴,用具の取り扱い等を身につけさせ,全活動を通して生きる力を育みたいと考えた。
(2)地域の実態
 A町の主産業は,農業であり平野部のA地区は稲作と畜産が盛んである。海抜40m位の山が連なるB地区では,山間の低地に水田が,高台には野菜栽培の畑が広がっている。また,C地区とD地区には工業団地があり,町の活性化に大きく貢献している。保護者の職種は,会社員,公務員,自営業,農業など様々である。また,核家族よりも三世代家族の方が高い割合を占めている。夏にはお祭りが行われ,祖母に着付けてもらったというゆかたを着てくる生徒も多い。
 
(3)生徒の実態
本校は,1年生111名(3クラス)・2年生109名(3クラス)・3年生122名(4クラス)・特殊学級1名(1クラス)の中規模校である。生徒は明るく素直であり,係活動や学習時の与えられたことには熱心に取り組むことができる。
選択教科の履修幅が拡大し選択科目が複数となり,生徒が自分の個性や適正に応じて,興味・関心を持って教科を選択できるようになった。3年の選択授業では昨年から生徒の要望が多かったゆかたやじんべいの製作を行うことにした。そして16名の生徒が家庭科に集まった。
 
3,研究目標
自国の文化や他国の文化の調べ学習を通し,日本の衣文化の良さを発見し,意欲的にゆかたやじんべいの製作ができる。
 
4,研究仮説
 (1) 生徒の興味・関心を生かし,授業後の成就感が得られるような評価カードや指導を    工夫していけば,主体的に取り組むであろう。
 (2) ゆかたやじんべいの製作をすることにより,自らの手でつくりあげる喜びを感じら    れれば,実際に着用し,活用することができるであろう。
 (3) 自国と他国の民族衣装を比較することで,自国の理解をより一層深めることができ    るであろう。
 
5,授業実践
 (1)題材名 ゆかたとじんべいの製作
 
 (2)題材について
教育内容の厳選が行われ教育課程の基準において内容の重複がなくなり不十分な内容を補う機会がほとんどない。このことから,選択家庭科では,課題学習,基礎的・基本的な知識と技術の定着を図るための補充的な学習や各分野の内容を統合した発展的な学習をし,生徒に成就感を味あわせることのできる題材にとりくもうと考えた。
そこで題材については,お祭りや花火大会にでかける時に自分で作ったものを着ていきたいという要望が多かったゆかたとじんべいを製作することにした。ゆかたは直線縫いがほとんどで,襟付けを丁寧に仕上げることができれば,基本的なミシン縫いの技術の習得ができる。また,じんべいについては上衣はゆかたと同時進行で行い,下衣のパンツについては1年の復習になる。毎時間ごとに評価カードを記入し自分の進度を確認することができ,先を見て計画的に作業を進めることができ意欲につながると考えた。
自国の和服文化だけでなく他国との違いに目を向けることもこれからの国際社会の中で生きる生徒にとっては重要である。そこで,発展的な学習としてアジアの代表的な韓国のチマ・チョゴリやインドのサリーに注目した。地域の気候や文化と関連づけながら民族衣装について考えさせたい。ゆかたの特徴は体型に関わらず,丈が自在に調節できることと着物に比べ簡単に着ることができることだ。チマ・チョゴリは寒冷な地域の寒帯性衣服でありながらデザインが豊かで,活動するには便利でゆとりと余裕を共に持ち合わせている。サリーは一枚の布を身体にまきつけたとてもシンプルで衣服の原点ともいえる民族衣装である。他国の民族衣装についても目を向けながら自国の衣文化について振り替えさせたいと考えた。自分たちで調べ,まとめ,製作することは意義深いことである。そして,衣生活について振り返り,よりよい生活が送れるだろうと考え,本題材を設定した。
 (3)生徒の実態(3年 119名・・・男子64名 女子55名〔選択家庭科16名〕)
実態調査の結果から,3年全体ではゆかたを着たことのある生徒は半数,女子はほぼ全員着たことがあることがわかった。また祖母や母がゆかたを作ってくれたことがある人が全体の1割ほどいる。ゆかたを着付けてくれるのは祖母や母がほとんどだが,自分で着付けをしたことがあるという生徒も12人いた。選択家庭科の調査では,小さい頃は祖母や母に着付けてもらい,中学生になってからは自分で教わりながら着付けをしたという生徒もいてゆかたが自分の生活に身近になっていると思われる。だからこそ,自分が作ったゆかたを自分で着付けたいという声があがった。
民族衣装についての認知度は着物,ゆかた,サリー,チマチョゴリの順でサロンやロンジー,ポンチョという民族衣装も知っていると答えた。情報化社会の中でテレビなどから異文化に触れる機会は多いことがわかった。
 
 (4)目標
○日本独特の着物の成り立ちや特徴について知り,韓国やインドの民族衣装についても調べ,まとめて発表することができる。
○ゆかたやじんべいの製作に取り組み,和服の着付けについて理解し,自分でゆかたを着ることができる。
 
 (5)指導計画(第3学年 35時間扱い)
   @オリエンテーション(選択教科ガイダンス・希望調査)・・・  1時間
   A学習内容の確認・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1時間
   B和服,チマチョゴリ,サリーなどの民族衣装調べ,発表会・・ 4時間 *1
   C民族衣装の試着・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1時間 *2
   Dゆかた,じんべいの製作・・・・・・・・・・・・・・・・・26時間 
ゆかた 時配   じんべい 時配
裁断,接着芯貼り   裁断,接着芯貼り
裁ち目かがり   裁ち目かがり
身頃の背中心を縫う   ひも,ポケット
身頃と前身頃をつなぐ   身頃の衿下を縫う
おくみを身頃につける☆   背中心を縫う
かけ衿を衿につける   衿を身頃につける☆
衿を身頃につける☆   わき,裾を縫う☆
わきを縫う   袖をつくり,身頃につける
袖をつくる   ひもを衿につける
袖を身頃につける   ズボンの股上と股下を縫う
裾を縫う☆   ズボンのウエストと裾を縫う(ゴム通し)
                             ☆手縫いも可能な行程
  E作品の発表,ゆかたの着付け・・・・・・・・・・・・・・・ 2時間  *3
 
 (6)授業実践












 
実践授業 学習の内容 学習のねらい 資料
実践例1
4時間扱い


 
着物成り立ちとインド(サリー)と韓国(チマ・チョゴリ)の民族衣装について調べよう 日本独特の着物の成り立ちや特徴について知る。
インドや韓国の民族衣装について知る。
・インターネット



 
実践例2
1時間扱い

 
他国の独特の衣装を試着し,ゆかたとの違いを理解しよう
 
インドや韓国の気候・文化について理解し,民族衣装の特徴について考える。 ・サリー
・チマ・チョゴリ

 
実践例3
2時間扱い
 
自分の作ったゆかたを着てみよう。
 
和服の着付けについて理解し,自分で着るとができる。 ・VTR

 
 
実践例1   民族衣装について調べよう!
時配 学習内容と活動 支援(○)と評価(◎) 材料・用具
 2

10






30







 8
 
本時の学習目標を確認する。  

ワークシート






インターネット






ワークシート
 
  民族衣装について調べよう  
興味のある民族衣装をあげ,グループを作り,調べたいことを確認する。
・ゆかたの何を調べるか,どこの国の民族衣装を調べるか相談する。

班ごとにインターネットや図書室を利用して民族衣装について調べる。
1班 着物の成り立ち
2班 ゆかたについて
3班 韓国のチマ・チョゴリ
4班 インドのサリー

調べてわかったことをワークシートにまとめる。



○ただ調べるだけでなく,どういうところにポイントを置きながら調べるか確認する。

○インターネットの使い方を確認し,検索件数が多い時は,絞り込み方を支援する。
◎班で協力して調べることができたか。




 
 
実践例2    民族衣装を着よう
時配 学習内容と活動 支援(○)と評価(◎) 材料・用具
 2

20






23


  5

 
本時の学習目標を確認する。  

ワークシート






ワークシート




 
  民族衣装を着よう  
韓国とインドの民族衣装を試着する。
・前時の授業を振り返り,民族衣装の特徴について確認しながら試着してみる。・韓国のチマ・チョゴリ
・インドのサリー
インドや韓国の気候・文化について理解し,民族衣装の特徴について考える。
感想をワークシートにまとめる。

 


○インドや韓国の文化の特徴を確認する。
◎班で協力して試着することができたか。




◎他国の民族衣装を試着して,他国の気候・風土を理解し自分の考えをまとめることができたか。
 
実践例3    ゆかたやじんべいを着よう
時配 学習内容と活動 支援(○)と評価(◎) 材料・用具
 2

15




20


15


  5

 
本時の学習目標を確認する。  

VTR










ワークシート

 
  ゆかたやじんべいを着よう  
ゆかたの着付けのビデオを視聴する。
・完成したゆかたと照らし合わせながら着付け方を確認する。

自分の作ったゆかたを着る。
・二人一組で着付けを行う。

自分の作った作品を試着して,一人ずつ発表する。

感想をワークシートにまとめる。

 


○VTRにでてくる言葉を確認する。







◎完成させた作品についてや相互鑑賞をおこなって,自分の考えをまとめることができたか。
 
6,研究のまとめ
 (1)成果
○毎時間評価カードを記入することによって,授業の始めにその日の作業内容を確認し,終わりに計画的に作業を進めることができたか振り返ることで,次回の授業への意欲につながった。
○ミシン縫いをするか手縫いをするか自分で選択する行程があり,主体的に製作にとりくむことができた。この行程を利用して進度の差を縮めることができた。
○自国の衣文化だけでなく,他国の民族衣装について調べることでその国々の宗教や気候について知るきっかけとなった。民族衣装を実際に着ることで,体験的な学習をすることができた。民族衣装にとどまらず,食文化などはどうなっているかといった他国のことをもっと知りたいという発展的な声が聞かれた。
○日本の伝統文化のひとつであるゆかたを自分の手でつくることができるのだという成就感を味わうことができた。
○じんべいは簡単に着られるが,ゆかたは「難しそう,一人じゃとても着られない」と言っていたが,VTRを見て実際に着付けを体験してみると「思ったほど難しくなかった」,「これなら一人で着ることができる」という声に変わった。
○製作中は生徒全員が真剣に意欲的に作業する姿が印象的だった。はやく完成させ,ゆかたとおそろいの巾着を作った生徒もいた。
○夏のお祭りに行くと周りの人の着こなしに目がいくようになった。洋服よりゆかたでお祭りや花火大会にでかけたいという生徒もいて,自国の良さを知るきっかけになった。
○ゆかたやじんべいの作り方を祖母に教えてもらったという生徒もいた。学校で作
るミシン縫いとは違って全部手縫いだったので驚いたし,すごいと思ったという。古くから伝わるものの良さを知り,家族のコミュニケーションも深まった。
 
 (2)今後の課題
・自国の文化と他国の文化を比較したが,インドや韓国以外の国についても目を向けさせる必要性を感じた。また,ゲストティーチャーを招くなどして他国について学習する機会がもてれば,より一層理解が深まるであろう。
・民族衣装調べのレポートを班で模造紙にまとめるとき,授業時間内に終わらない班もあり放課後等の時間を使わなければならなかった。
・今回はしるしつけまで印刷されている布を使用したが,反物からしるしつけをして,裁断するという行程をふむことができればより日本の伝統にふれることができると考えられる。技術や時数の兼ね合いもあるが指導を工夫していきたい。
・ゆかたの着用後の保存や手入れについてもふれていきたい。
・一人ひとりをみつめ,本時の授業で生徒が行った作業内容や意見を積極的に評価する方法を検討していきたい。
・さらに生徒自らが基礎的・基本的な技術を身につけそれを実生活で生かせるように多様な学習活動ができるような授業内容を研究していきたい。